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DD NEWS TOPICS

財務DDニュース06'夏号

 

財務DD関連

・政府による「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改定版」の公表
新しい資本主義実現会議/内閣官房ホームページ

 政府による「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改定版」(以下、実行計画)が2024/6/21に公表されました。こちらの実行計画には、M&Aの円滑化等が盛り込まれていますが、今回M&Aに関わる方々にとって重要な会計事項である「のれん」に関する事項が新たに盛り込まれましたのでご案内させていただきます。
IFRSでは従前より「のれん」は非償却とされており、償却の可否に関する議論も開始されましたが、この議論も一段落して「のれん」は当面非償却のままとなりました。
 今度は、JGAAPにおいて非償却に関する議論が出てくる可能性があると考えられます。本トピックスでも今後の議論の状況を注視してまいります。

(※以下抜粋)
スタートアップのM&Aを促進するためのれん減損の在り方の検討 スタートアップのM&Aを促進し、グローバルレベルのスタートアップを生み出す観点から、会計基準のグローバルスタンダードである、のれん非償却を内容とする 国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大に向けた更なる対応を検討する。加えて、我が国の会計基準が多くのスタートアップ、中堅・中小企業に利用されていることも踏まえて、のれんの非償却を含めた財務報告の在り方を検討する。

 

・経済産業省 約束手形等の交付から満期日までの期間の短縮を事業団体に要請
約束手形等の交付から満期日までの期間の短縮を事業者団体に要請します /METI/経済産業省

 2024/11月以降、下請法上の運用が変更され、サイトが60日を超える約束手形や電子記録債権の交付、一括決済方式による支払は、行政指導の対象となります。手形や電子記録債権を発行している企業からすれば、支払サイトの短縮は資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があります。
 また、逆に受け取る側からすると資金繰りが大きく改善する可能性が考えられます。M&Aを実施するにあたっては、DDの段階で当該手形等の期間の短縮が対象会社の資金繰りに与える影響を考慮しておく必要があると考えられます。

 

・倒産防止共済の節税策に歯止め
中小企業倒産防止共済制度の不適切な利用への対応について /中小企業庁

 令和6年度税制改正により、令和6年10月1日以後に倒産防止共済を解約した場合、解約後2年間は再加入しても掛金の損金算入は不可とされています。中小企業のM&Aに係る財務DDを実施していると、倒産防止共済に加入している中小企業がかなりの数存在していることに驚かされます。顧問会計事務所等に勧められて加入しているケース等も多いのではないでしょうか?
 この倒産防止共済について、昨今では共済契約に加入してから3,4年目に任意解約する件数が増えているようです。解約後またすぐに再契約して税務上の損金に算入することで、さらに税制上のメリットを享受することができていました。このような過度とも思える節税対策について、一定の歯止めがかけられることとなりますので留意が必要です。

 

法務・労務DD関連
(記事監修:弁護士法人 三宅法律事務所)

・中小企業のM&A・法務DDにおいて朗報か?
 最高裁判決で株券発行会社が株券不発行の場合でも当事者間での株式譲渡の有効性が認められる

非公開会社である株券発行会社において、株券発行前にした株式の譲渡は譲渡当事者間においては効力を有し、株式の譲受人は譲渡人に対して株券交付請求権を保全する必要がある場合には、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができるとする最高裁判決(令和6年4月19日 第二小法廷判決)です。
⇒最高裁判決全文はこちら


【事案】

対象会社は、平成16年(2004年)6月に設立された非公開会社(株式の譲渡に取締役会の承認が必要な会社)で、株券発行会社であった。
①対象会社の設立時からの株主であるY社(被上告人)は、平成24年(2012年)4月、自社が保有する対象会社の株式200株(「本件株式1」)をAに譲渡した。対象会社の取締役会は上記の譲渡について承認した。
② Y1は対象会社から、平成18年(2006年)5月に募集株式310株を引き受けた。平成18年(2006年)8月、Y1はBに対して自ら保有する対象会社の株式のうち240株(「本件株式2」)を譲渡し、対象会社の取締役会は上記の譲渡を承認した。Bは、平成25年(2013年)7月、Cに対し、本件株式2を譲渡し、対象会社の取締役会は上記の譲渡を承認した。
 しかしながら、対象会社は株券発行会社であるにもかかわらず、設立以来、株券が発行されたことはなく、上記①・②の本件株式1・本件株式2の譲渡の際にも株券が発行されることはなかった。
 Aは、平成29年10月、本件株式1につき、債権者代位権に基づき、Y社の対象会社に対する株券発行請求権を行使するとともに、対象会社に対して株券の交付を自己に対してすることを求め、株券の交付を受けた(「本件株券1」)。
 Cは、同じく、平成29年10月、本件株式2につき、債権者代位権に基づき、Y1の対象会社に対する株券発行請求権を行使するとともに、対象会社に対して株券の交付を自己に対してすることを求め、株券の交付を受けた(「本件株券2」)。
 Aは、令和2年(2020年)3月、本件株式1をXに譲渡し、本件株券1を交付した。Cは、令和2年(2020年)7月、本件株式2をXに譲渡し、本件株券2を交付した。対象会社の取締役会は、上記の譲渡についていずれも承認した。

【原審(高裁判決)】
 原審は、X(上告人)は、本件株式1及び2を無権利者から譲り受けたにすぎず、これらを善意取得する余地もないとして、Xの請求をいずれも棄却した。理由は、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、会社法128条1項により、当該株式に係る株券を交付しなければ、譲渡当事者間においても、その効力を生じないから、本件株式1についてY社からAに、本件株式2についてY1からBに、それぞれ有効に譲渡されたということはできないとした。それを前提に、善意取得の成立や株券発行請求の代位行使も否定した。

【最高裁判決】
 最高裁判決は、以下のとおり判示し、原審を破棄し、原審に差し戻した。
 会社法は、株主はその有する株式を譲渡することができると規定するとともに(127条)、株式は意思表示のみによって譲渡することができることを原則とするところ、同法128条は、株券発行会社の株式の譲渡について特則を設け、同条2項は、株券の発行前にした譲渡につき、株券発行会社に対する関係に限ってその効力を否定している。そして、同条1項は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないと規定しているところ、株券の発行前にした譲渡について、仮に同項が適用され、株券の交付がないことをもって、株券発行会社に対する関係のみならず、譲渡当事者間でもその効力を生じないと解すると、同項とは別に株券発行会社に対する関係に限って同条2項の規定を設けた意味が失われることとなる。また、株券の発行前にした譲渡につき、上記原則を修正して譲渡当事者間での効力まで否定すべき合理的必要性があるということもできない。以上によれば、同条1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であると解するのが相当であるというべきである。
 したがって、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。
 また、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対する株券交付請求権を保全する必要があるときは、民法423条1項本文により、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができると解するのが相当である。

【本判決の意義】
(参考条文)
(株券発行会社の株式の譲渡)
第百二十八条 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。
2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。

 株式譲渡型の中小企業M&Aにおいては、本判決の事案のように、株式の譲渡制限のある会社において、株券発行会社であるにもかかわらず、株券が発行される前に株式譲渡がなされているケースが多数あり、これまでの法務デューディリジェンスにおいては、株券発行前の株式譲渡の当事者間での有効性について、以下の有効説・無効説があることを踏まえた対応策を検討することが多かったです。
 ・有効説(山下友信編『会社法コンメンタール3』317頁[前田雅弘]):
株券発行前の株式譲渡についても会社法128条1項が適用されるとすると、株券発行前で株券の交付がない以上、譲渡当事者間ですら譲渡の効力が生じないのであり、同条2項は無意味な規定となってしまう。それゆえ、株券発行前の株式譲渡については同法128条1項が適用されず、民法の一般原則により意思表示のみで有効に株式を譲渡できる。
 ・無効説(江頭憲治郎『株式会社法 第9版』233頁、相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔編著『論点解説 新・会社法』66頁):
株券発行前の株式譲渡についても会社法128条1項が適用され、当事者間に債権的な効力は発生させるが、会社との関係では当事者間でも譲渡の効力を生じない。同条2項は、株券発行前であっても指名債権譲渡方式による譲渡はできず同条1項の適用があることを注意的に規定したもの。※同条2項の趣旨は、「単に株券発行に係る事務の混乱を防止するなど会社の利益を考慮するにとどまらず、株式の帰属を画一的に確定することにより株主の地位に関する法律関係を明確にして、法的安定性を図ることをも目的としている」ため「会社の側からもその効力を認めることができないと解するのが相当」(本判決の原審・東京高判令和4年2月10日)。
 
 本判決は、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない、として有効説の立場を明らかにしたものです。
 本判決により、今後、株券発行前の株式譲渡の当事者間での有効性の議論は概ね解消するとともに、法務デューディリジェンスにおいて株券発行前の株式譲渡の問題が判明した際は、進行中のM&Aにおける買主としては、株式譲受人(※進行中のM&Aにおける売主)が、株式譲渡人に対する株券交付請求権を被保全債権として、債権者代位権に基づき、対象会社に対して株券を発行してもらって直接自身に株券を交付してもらう方策などを、有力な対応策として検討し、必要に応じて株式譲渡契約書の売主の誓約事項・売買代金支払の実行前提条件に盛り込むことになろうか。