財務DDニュース05'夏号
財務DD関連
・2023/3期の有価証券報告書からサステナビリティ開示の記載が始まる
上場企業等が開示する有価証券報告書にサステナビリティに関する企業の取組状況等の開示が始まっています。
上場企業において、サステナビリティに関する事項は重要な経営課題となってきています。M&Aにおいても、譲渡企業におけるサステナビリティへの取組状況が譲受企業の意思決定に影響することが考えられるため留意が必要です。
・改正「中小企業の会計に関する指針」を公表
(2023/5/17 ASBJ/JICPA/日本税理士会連合会/日本商工会議所)
個別注記表の収益の計上基準の注記に含める具体的な事項が追加され、記載例も開示されました。
「収益認識に関する会計基準」を適用する譲受企業が、「中小企業の会計に関する指針」を適用する譲渡企業を買収するにあたっては、「収益認識に関する会計基準」を適用した場合の影響をデューデリジェンスを通して事前に把握しておくことが必須となってきています。
「中小企業の会計に関する指針」を適用する企業が注記表に収益認識に関する個別記載を行うようになることは、スムーズなデューデリジェンスの実施に役立つものであり、今後の実務運用に期待がもてます。
・「リースに関する会計基準(案)」等の公表
国際的な会計基準(IFRS16号)との整合性を図る観点から、リース会計基準に関する議論がなされていましたが、遂に公開草案が公表されました。
この基準が適用されると、いわゆる賃貸借契約(土地・建物の賃貸借契約等)も当該基準の対象となり、使用権資産が貸借対照表に計上されるようになります。
リース契約を多数有する譲渡会社を買収するような場合には、「リースに関する会計基準(案)」の適用が譲渡会社の貸借対照表及び譲受会社の連結貸借対照表にどのような影響をもたらすのかについて、事前にデューデリジェンスを通して把握しておくことが必須となってくると考えられます。
法務・労務DD関連 (記事監修:弁護士法人 三宅法律事務所)
・2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ
2023年3月31日まで月60時間超の残業割増賃金率について、大企業は50%(2010年4月から適用)、中小企業は25%でしたが、労働基準法が改正され、2023年4月1日から、中小企業の割増賃金率が引き上げられ、大企業、中小企業ともに50%になります。
月60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせる場合には、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。
労務DDにおいて、中小企業である対象会社の未払残業代の算定をする際には、同改正について留意する必要があります。
・固定残業代制度に関する2023年3月10日最高裁判決
(最高裁判所判例集)
トラックドライバーの給与を「基本給・割増賃金振分け方式」で算出していた固定残業代制度について、最高裁は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別できないと判示しました。
中小企業のDD(デューディリジェンス)においては、固定残業代制度を導入している企業を対象とする場合がありますが、本判決により、基本給と割増賃金が形式的に区分されていても、割増賃金としての対価性がない場合には明確区分性が否定される可能性があります。また、長時間労働を前提とする固定残業代制度について対価性が明確ではないなどとして否定される可能性があります。