飲食業のポイント
【特徴】
飲食業は、飲食物を顧客に提供するサービス業であり、個人経営のカフェやバーから大規模なチェーン店まで様々です。飲食店の経営は、メニュー、価格、集客が3大要素と呼ばれ、顧客ターゲットを明確にし、満足のいくサービスを提供できるかがポイントとなります。
本項では、複数店舗を経営しているレストランを想定して解説しています。
①低い参入障壁と激しい競争環境
飲食店は、リースの利用や居抜き等を利用することで比較的少額の投資で出店でき、規制もそれほど厳しくないために参入障壁が低く、ライバル店の新規オープン等の外的な要因から大きな影響を受けます。また、同業の飲食店だけではなく宅配やテイクアウト、スーパー等の惣菜売り場などもライバルであり、極めて競争環境の激しい業界と言えます。
②業態の多様化
飲食業界は、顧客の嗜好の変化に応じ、流行り廃りの激しい業界です。このため、複数の業態やブランドを持ってリスクを分散させることも広く行われています。業態やブランドの拡大にあたっては、自社で開発するだけではなく、M&Aが活用されることも少なくありません。 一方で、業績が低迷した場合の業態転換もよく見受けられます。
③POSレジによる管理
飲食業界では、店舗での注文から調理、会計までの情報を漏れなく正確に管理するため、POSレジを導入することが一般的です。POSレジは売上分析機能や顧客管理機能を備えていることが多く、複数店舗で集計・記録したデータを瞬時に統合することもできるため、各店舗の売上管理を一元化することも可能となります。
④現金販売が基本
飲食店の代金決済は、現在でも比較的現金が利用されることが多くなっています。現金は、レジ操作時における数え間違いや紛失、従業員による盗難等のリスクが高いため、POSレジ等により適切な管理体制を構築することが求められます。一方で、近年は決済手段も多様化しており、クレジットカードや電子マネーを利用した決済も増えてきています。
⑤労働集約型ビジネス
飲食店は調理や接客に人手が不可欠であることから、労働集約型のビジネスにあたります。パートやアルバイトの比率も高く、近年では外国人労働者も増加しており、労務管理の重要性が高い業界と言えます。労働時間・深夜残業の管理、入退社の手続、社会保険・労働保険の手続など、労務面の管理が非常に重要となります。
⑥集客方法の変化
飲食店の集客方法は、従前の看板やフリーペーパー・折り込み広告などから、近年では自社HPやグルメサイト・アプリ、SNSなどに変化しています。 また、飲食店では、顧客の囲い込み戦略として広くポイント制度が利用され、ポイントは販促目的だけではなく、顧客情報の管理にも利用されています。
⑦フランチャイズ方式の採用
飲食店においては、本部(フランチャイザー)に加盟金・ロイヤリティ等を支払うことで、加盟店(フランチャイジー)が商標やノウハウ等を活用できるフランチャイズ方式が活用されています。加盟店は、フランチャイズ契約により事業上の制約を受けるものの、ブランドの利用や本部のサポートが受けられるため、安定的に事業を運営できると言われています。
【財務DDのポイント】
上述のような特徴を踏まえ、財務デューデリジェンスにあたっては以下のような点に留意しながら実施しています。
■全般事項
1.店舗別管理
飲食店は、店舗型ビジネスのため店舗単位での実態を把握することが重要となります。財務デューデリジェンスにおいては、店舗ごとに売上規模や収益性、設備投資額・帳簿残高などの把握をするとともに、来店客数などのKPI分析を行います。店舗ごとの特徴・特色を把握することにより、M&A実施後の事業計画作成や不採算事業(店舗)の整理などにも役立てることができます。
2.設備投資
飲食店は、最終消費者向けのビジネスであり、設備の老朽化等による店舗の魅力の低下が収益性に直結します。そのため、一定のサイクルでリニューアル等が必要になると考えられます。過去の設備投資実績や、新規出店等の計画を確認するとともに、設備資金の調達方法も確認することで、M&A後の資金手当ての必要性について把握することができます。
3.現物資産の管理(現金・食材等)
飲食店では、従業員は日常的に現金や食材を直接取り扱い、これらは持ち運びが容易であることから、盗難リスクが高いといえます。財務デューデリジェンスでは、レジ現金の管理方法(実査頻度、金庫や納金機の取扱い、違算の取扱い等)の確認を行うとともに、食材の保管状況、実地棚卸の実施状況(方法・頻度)等のヒアリングを行います。
■貸借対照表項目
①現金、売上債権
飲食店は、今でも現金売上が多いため、財務デューデリジェンス上も現金の実在性の確認が重要となります。レジ現金の業務フローを確認したうえで、基準日時点のPOSレジの残高情報と実査の結果の照合を行います。また、クレジットカードや電子マネーでの売上について、売上債権の計上・消込が適切に行われ、残高が適正であることを確認します。
②棚卸資産
飲食店では、仕入れ(発注及び検収)の頻度が高いため、受払管理は行わずに、実地棚卸により在庫数量を確定させ、単価は最終仕入原価法により評価することがよく見受けられます。また、在庫の評価にあたっては、原則として廃棄の対象となる使用期限が切れた食材が帳簿に残っていないかの確認が必要となります。
③固定資産
飲食店は、店舗型のビジネスであるため、固定資産の適切な評価は財務デューデリジェンスの重要なポイントとなります。固定資産台帳の閲覧により、各店舗の設備の内容や投資額を把握するとともに、ヒアリングにより固定資産の使用状況や管理状況、閉鎖した店舗の資産などで除却処理漏れとなっている資産がないかを確認します。
また、業績が低迷した時期に減価償却費の計上をとりやめる、設備投資時に税務上の優遇措置である特別償却や圧縮記帳を行っているなどのケースがあります。これらの処理を行っている場合、継続的に減価償却を行っていた、あるいは特別償却や圧縮記帳を行わなかったと仮定した場合の貸借対照表価額を算定します。
④減損会計
買い手企業が上場企業の場合は、不採算店舗について減損会計の適用の検討が必要です。減損会計では、固定資産の帳簿価額のうち、将来の営業活動等により回収が見込めない部分を減損損失として評価減します。店舗ごとに作成している事業計画をもとに減損の検討を行うことになりますが、事業計画の作成の前提や計画の実行可能性などに注意することが必要です。
⑤資産除去債務
飲食店では、商業施設やビルなどを賃借して入居するケースも多く、こうした賃貸借契約には退去時の原状回復義務が定められていることがほとんどであり、退去時に原状回復費用の負担が発生します。このような物件に関しては、過去の退去費用の実績などを参考にして、原状回復費用を合理的に見積もることが必要となります。
⑥ポイント引当金(契約負債)
ポイント制度を導入している飲食店において、顧客のポイント使用時点で費用を認識する中小企業がよく見られます。実際にはポイント使用時点ではなく、付与時点ですでに潜在債務が発生しているため、財務デューデリジェンスにおいては、過去のポイントの使用実績などを参考にして将来の使用率を見積り、ポイント引当金を計上することが必要となります。
⑦賞与引当金・退職給付引当金
飲食店の運営には、多数の従業員、パート・アルバイトの雇用が必要なため、賞与引当金や退職給付引当金などの勘定は重要です。しかしながら、税法基準により、これらの引当金が設定されていない中小企業が散見されます。財務デューデリジェンスでは過去の支給実績や会社の規程等を把握し、基準日時点の要引当額を適切に見積るための手続を行います。
■損益計算書項目
①売上高・売上総利益
飲食店は、POSレジにより売上の計上がシステム化されていることが多く、財務デューデリジェンスにおいてはPOSレジのデータを分析することにより収益性(売上高・売上総利益)の把握を行います。
飲食店の原価率(食材費)は一般的に3割が目安と言われており、食材費に人件費を足したFLコスト(F:食材費(FOOD)、L:人件費(LABOR))は6割程度とも言われています。原価率の適正水準は扱っている食材や、運営形態、売上規模などによって異なると考えられますが、上記の比率は一応の目安にはなると言えます。
収益性の分析にあたっては、店舗のブランドや業態、運営形態(直営店・加盟店)、店舗のエリア、季節的変動性などに注意し、店舗単位で分析を行うことがベースとなります。売上高・売上総利益などの財務情報だけではなく、来店客数などの非財務情報を利用して客単価などを分析に組み込むことで、店舗別の実態がより明確になります。
②仕入リベート
飲食店では、取引量に応じて仕入先からリベートや割戻、販売奨励金等を受け取ることも珍しくありません。購買担当者がリベートを個人的に受領するなどの不正が行われることがあり、リベート等の計上漏れは税務リスク要因になるため、注意が必要です。財務デューデリジェンスにおいては、主要な取引先との契約書を確認し、帳簿外で処理されているリベート等がないか確認します。
③販売費及び一般管理費
飲食店は、一定の設備投資が必要であるとともに、店舗の運営のためには多くの人員が必要となることから、減価償却費・賃借料・光熱費・人件費などの固定費の割合が高くなります。販売費及び一般管理費の分析にあたっては、必要に応じて変動費と固定費に分けて整理することも有用です。
■その他の留意事項
①借入金に対する債務保証や担保提供
店舗などの設備資金について、金融機関から多額の借入れをしている飲食店も存在します。中小企業では、これらの借入金に対して社長自らが個人保証を行っていたり、不動産等の個人資産を担保として提供したりしていることが少なくありません。個人保証の解除は、中小企業のM&Aでは極めて重視される事項と言えます。
②労働時間の管理(未払残業代)
飲食店においても人手不足が深刻化しており、長時間労働や未払残業代が存在する可能性があります。未払残業代の調査は、一義的には人事/労務デューデリジェンスでカバーされますが、財務デューデリジェンスにおいて質問により状況を把握し、就業規則やタイムカードなどの閲覧により概算金額を把握することも有意義です。
弊社サービスに関するお問い合わせ、資料請求は下記からお問い合わせ下さい。